特徴
当院は、外科系の主要学会である外科学会、消化器外科学会の施設認定を取得しております。施設認定には、常勤の専門医、指導医がいることが必要で、各学会の専門医、指導医認定には、多数の症例の治療経験と研究成果の発表が必要であり、その分野のエキスパートと言えます。当院には、外科学会指導医、専門医、消化器外科学会指導医、専門医が在籍しており、微妙な判断を求められる症例でも、的確な治療選択を行っております。
特に、癌診療において当院は、地域がん診療拠点病院であり、胃、食道、大腸、肝臓、膵臓、胆道(胆嚢を含む)など、消化器癌手術におけるエキスパートが多数おります。昨今は大腸癌をはじめとする消化器癌手術全般に内視鏡手術を取り入れており、これによって、患者さんに低侵襲で、より早期の退院を可能にしております。
さらに、乳癌、甲状腺癌などについても、熟練した外科医がおり、数多くの手術を実施しており、術後の治療に関してもガイドラインを遵守して化学療法、ホルモン療法、放射線治療を組み合わせて最適な治療を行っております。乳癌については、月3回、東北大学より乳腺外科専門医、指導医が来院し、乳腺外来で診察を行っております。進行再発癌に関しては、手術、薬物療法、放射線治療の適応や順序を検討しながら治療法を検討し、患者さんが長期にわたって良好な状態を保てる治療を心がけております。外来化学療法室や緩和医療科との連携もスムーズで、包括的な癌診療を行っています。
良性疾患の手術に関しては、(腹腔鏡下)胆嚢摘出術、短期入院での鼠径ヘルニア手術や虫垂炎に対する(腹腔鏡下)虫垂切除、内痔核硬化療法(ジオン四段階注射法)も数多く行っています。
血管外科については、外科外来での一般診療のほか、定期的な血管外科専門外来での診療を行っています。血管疾患で大侵襲手術が必要な患者さんには、胆沢病院血管外科チームと連携し治療を行います。
また、当院には一関市内の手術が必要な救急患者のほとんどが搬送され、大きな緊急手術にも対応しております。特に消化管穿孔は致死率が高いのですが、適切な手術と集中治療、適切な術後管理を行い、多くの患者さんを救命していると自負しております。
診療内容
1)胃癌
最新の胃癌治療ガイドラインに従って、早期(粘膜癌で内視鏡治療適応のもの)であれば消化器内科で内視鏡治療を施行します。ESD(内視鏡的粘膜剥離術)をはじめとした、患者さんに低侵襲な治療を優先に施行しますが、やはり手術を避けられない症例は多数存在します。早期癌の症例については腹腔鏡手術を第1選択とし、進行癌についてはガイドライン上の郭清範囲を守った適正手術に努めています。最近は癌以外の胃腫瘍に腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)も取り入れ、より低侵襲治療を進めています。
術後の化学療法は、進行度に応じて施行するかどうかを決定します。仮に手術対象にならない進行再発胃癌症例でも、東北大学腫瘍内科学講座教授をはじめとした化学療法に特化したエキスパートが定期的に外来を開いており、最新の化学療法メニューを使って、治療にあたります。
2)大腸癌
最新の大腸癌治療ガイドラインに従って、術式を決定します。大腸癌については進行癌でも、腹腔鏡手術の適応を広げております。大規模試験で腹腔鏡手術は開腹手術と遜色ない治療成績であることが証明され、患者さんにとってより優しい治療を優先して行います。仮に肝転移、肺転移があっても切除可能であれば、化学療法後の切除が基本方針で、肝転移切除にも腹腔鏡手術を取り入れ、低侵襲切除を目指しています。
また、大腸癌でも胃癌同様、東北大学腫瘍内科学講座スタッフと連携をとり、最新の化学療法を行っています。
3)食道癌
最新の食道癌診療ガイドラインに従い、内視鏡治療、手術治療、化学放射線療法を行っています(内視鏡治療は消化器科で施行します)。食道癌手術治療は、首、胸、腹の3領域に手術操作が及ぶため、消化器外科手術の中でも最も大きな手術の一つになります。食道癌では、手術による体への負担が非常に大きいため、手術前から呼吸訓練や適切な栄養摂取を行い手術に備えることが重要になります。当院では、食道癌手術による体力低下の予防のため、手術前からの積極的な呼吸訓練、栄養管理を行っております。
また、当院では、手術の負担を軽減するために胸腔鏡(細いカメラ)を用いて小さい傷で食道切除術(胸腔鏡下食道切除術)を施行しており、手術後の疼痛軽減や呼吸機能低下の防止に努めております。
進行した食道癌に対しては、手術前に抗癌剤治療を併用(術前化学療法)した手術や、癌を完全に消すことを目的とした根治的化学放射線治療(抗癌剤と放射線治療を組み合わせた治療)を施行しております。
4)肝癌、転移性肝癌
最新の肝癌診療ガイドラインに従い、治療を進めています。原発性肝癌の基礎となることの多いウイルス性肝炎については、消化器内科医師が積極的にウイルス治療や、早期の癌への塞栓療法を行っており、手術適応を厳密に判断しています。手術適応症例においてはCT、MRI、アシアロシンチ、ICG検査等で切除後の残肝予備能を推定してから、切除を施行しており、かなり大きな肝切除症例にも対応しております。
手術においては、CUSA、超音波擬固切開装置、IO電極、マイクロ波凝固装置、アルゴンビーム凝固装置等の機器をそろえ、また、腹腔鏡技術を駆使して、従来の開胸まで含めた大切開の肝切除から、より小切開の肝切除を行うことができるようになり、患者さんに優しい低侵襲手術を心がけています。
5)胆道癌、膵癌
最新版の胆道癌診療ガイドライン、膵癌診療ガイドラインに従い、治療を行います。これらの癌手術は非常に複雑で、高度な手術技能が必要ですが、当院外科には肝移植経験をもつスタッフをそろえており、肝胆膵外科においても経験豊富です。
また、これらの癌は手術だけでは治癒できない症例も多数いることが知られており、化学療法や放射線療法も追加した集学的治療法の必要性が提唱されています。当院は化学療法スタッフ、放射線治療スタッフも充実しており、手術を含めたこれらの治療を的確に組み合わせることで、患者さんの予後を改善します。
6)胆石症
最も多い消化器手術疾患である胆嚢結石、胆嚢炎、胆嚢ポリープの治療は腹腔鏡下胆嚢摘出術を基本としています。最近数年の腹腔鏡下手術率は90~95%で他施設に劣らない内容です。また、胆嚢炎、胆管炎診療ガイドライン(TG2018)に沿った治療に対応し、胆嚢炎症例でも、全身状態が許せば緊急腹腔鏡手術による早期治療を行っております。
7)虫垂炎
腹腔鏡で施行することを基本とし、以前、小児の虫垂炎を中心に行っていた、単孔式虫垂切除(穴1つでの手術)を、成人にまで拡大し施行しています。膿瘍を形成した症例にも可能であれば、保存治療で膿瘍を縮小させ、より切開創の小さい待機的腹腔鏡下虫垂切除を目指しています。
8)乳癌
最新の乳癌診療ガイドラインに従い、治療を行っております。月3回、東北大学より教授をはじめとする乳腺外科専門医、指導医が乳腺外来のため来院し、治療方針の確認と難しい症例に対する診察を行っております。また、乳癌の認定看護師も常勤しており、豊富な知識で患者さんの手助けとなっております。
乳癌の診断に関しては、マンモグラフィと超音波検査が必要です。マンモグラフィ読影認定医師とマンモグラフィ撮影認定診療放射線技師がおり、適切な検査と読影を行っております。マンモグラフィは2次チェックを東北大の乳腺外科専門医、指導医をまじえて行うこととし、見落としをできるだけなくすように努めております。
放射線療法は手術後の補助療法としてだけでなく、進行再発癌に対しても必要な治療法です。放射線治療医が常勤しており、副作用の少ない放射線照射装置で放射線治療を行っています。
また、乳癌は浸潤癌(早期癌ではない癌)の場合、血管やリンパ管に入って全身に広がる転移が起こりやすく、浸潤癌である乳癌は見つかった時にはすでに全身病といわてれています。全身療法には化学療法(抗癌剤)、ホルモン療法、分子標的療法があります。当院には化学療法認定看護師と癌化学療法認定薬剤師が常勤しており、化学療法を始める前に患者さんに説明を行い、化学療法薬剤について厳重に管理しております。
9)甲状腺癌
最新の甲状腺腫瘍診療ガイドラインに従い、治療を行っております。甲状腺は血流に富んだ組織により、他の癌のように組織診ができないため、細胞診で良、悪の判断を行っています。しかし、細胞診で甲状腺癌疑い、または確定であっても、誤診のことがあるため、必ず病理医による術中迅速診で組織診断を行い、癌であるかどうか確認してから癌の手術を施行しています。癌の手術とは、癌のあった側の甲状腺を切除後、同側の頸部リンパ節郭清を行うことであります。このとき、甲状腺の裏側にある副甲状腺が血流の関係上残せないことがあり、この場合は摘徐後細切して自家移植しています。
さらに、外来131-Iアブレーション可能施設を取得しており、甲状腺癌術後に放射性ヨードにて外来アブレーション治療(放射線ヨードで甲状腺癌細胞を焼いてしまう治療)が当院では可能であり、甲状腺癌の再発に努めております。
また、以前はHigh dose シンチ検査施行時に甲状腺ホルモンを中止せねばならず、患者さんの大変な負担となっておりましたが、現在当院はTSHリコンビナントであるタイロゲンの使用可能施設登録をしており、患者さんに負担をかけることのなくHigh dose シンチ検査や外来アブレーションが可能です。
10)成人ヘルニア
腹筋の緊張による疼痛がほとんどなく、再発が少ないダイレクトクーゲル法、メッシュプラグ法を用い、2泊3日の短期滞在手術を行っています。また、腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術も行っています。
11)小児ヘルニアおよび他の小児外科手術
小児のヘルニアも基本は1泊2日の短期滞在手術です。月2回、小児外科専門医が診察と手術を行っています。ヘルニア嵌頓や腸重積などの小児外科救急疾患については、岩手県立中央病院と連携をとっており、即座の搬送が可能です。
12)動脈疾患
①閉塞性動脈硬化症(ASO, PAD):
年齢のせいと思われている足の痛み、この病気かもしれません。下肢虚血(血液のめぐりが悪い状態)による間欠性跛行(ある程度歩くとしびれたり筋肉痛が出る)があり、この疾患が疑われる場合は、月に1回の血管外科外来へ紹介します。血管外科外来では日常生活への悪影響の程度を判断し、まず薬物治療を開始、禁煙指導もあわせて行います。 手術適応の場合は、適切なタイミングで他院へ紹介します。
②腎動脈下腹部大動脈瘤:
ほぼ無症状の病気です。他の病気の検査で偶然見つかることが多いです。画像診断で瘤が小さい場合(概ね5cm未満)は、超音波検査やCTによる定期外来フォローを行い、経過を見ていきます。破裂の危険が高いとされる・瘤の増大速度が速い場合や・径5cmを超えた場合は、血管外科外来へ紹介します。年齢や合併症によっては、より大きな径になるまで経過観察を続ける場合があります。 手術適応の場合は適切なタイミングで他院へ紹介します。
13)静脈疾患
下肢静脈瘤:
一次性の場合は、まず弾性ストッキング着用による保存的治療を開始し、必要に応じて血管外科外来へ紹介します。皮膚変化(うっ滞性皮膚炎、静脈性潰瘍)を認め、手術適応の場合は他院へ紹介します。
14)痔、肛門疾患
旧来の痔核切除は術後の疼痛が長く、つらい思いをする患者さんもいましたが、当院では内痔核硬化療法(ジオン四段階注射法)を用い、日帰りで、注射による治療を基本としています。疼痛がほとんどなく、治癒率も高く、仮に再発しても何度でも治療が可能です。